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キャブアイスについて [ヘリコプター]

R22はキャブレターがあるので、キャブレターアイシング(キャブアイス)が起こることがあります。危険な現象ですので訓練では詳しく習うと思いますが、素人なりに解説(というか紹介)しようと思います。

まず、キャブレターとは「気化器」と訳されますが、要するに燃料と空気を適切な割合で混ぜる機械です。構造的にはベンチュリで空気を加速させるとともに減圧し、その圧力差でガソリンを吸い出しています。
昔の車はキャブでしたが、空燃比を厳密にコントロールすることが困難であるため、燃費とエミッション改善の両立ができず絶滅しました。そのため現在の車は例外なく燃料噴射です。(例外はあるかもしれませんが、少なくとも日本の新車はそうです)

Wikipedia - キャブレター
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%BC


それでキャブアイスというのは、文字通りキャブが凍る現象のことです。
車(もちろんキャブのもの)ではあまりないらしいですが(冷却水がインマニとキャブにきているかららしい)、バイクでは起こることがあるそうです。スクーターなどでは電熱装置がついているものもあるようですね。ネットにそのような話が転がっています。

Wikipedia - Carburetor Icing
http://en.wikipedia.org/wiki/Carburetor_icing

なぜ凍るかというと、ベンチュリでの減圧(ベルヌーイの法則から。必然的に温度低下を伴います)、燃料の気化熱、スロットルバルブでの減圧などが複合して混合気の温度が低下するからです。
とくにスロットルバルブの減圧による温度低下が重要です。R22のMAPゲージをみていると、コレクティブを下げている時(=スロットルを絞っている)にはMAP15インチ(inHg)などになっていることもあると思います。大気圧がほぼ30インチなので、つまりこのときはスロットルバルブ下流では圧力が半分に下がっているということです。
この要素だけとっても、温度が急激に低下することがわかると思います。DewPointを下回れば結露し、それが氷点下になれば氷になります。
もちろんキャブ自体もエンジンの熱で温められるでしょうから、全くそのままあてはめることはできないと思いますが、基本的な原理はこのとおりです。

JeppsenのPrivatePilotManualによると、キャブアイスは湿度80%以上でかつ温度21度以下(華氏70度)で起こりやすいそうです。もし湿度が0%なら絶対に起こりません。どれだけ温度が下がっても結露しないからです。逆に外気温が40度(摂氏)などでも起こった例はあるらしく、気をつける必要があります。
しかし、これをみると日本は非常にキャブアイスが起こりやすい条件ですね。十分に気をつける必要があります。

これを防止するためには、コレクティブを下げるときにはキャブヒートをONにします。サイクリックの右後ろにあるのでノブを引くとONです。最近の機体はオートキャブヒートがついているものもあり、それだとコレクティブを下げると自動的にアプライされます。

Wikipedia - Carburetor Heat
http://en.wikipedia.org/wiki/Carburetor_heat

構造はきわめて簡単で、吸気がエキゾーストパイプ周囲からのものに切り替わるだけです。エキマニの周りにカバーが付いており、ここからの吸気がキャブに吸入されることになります。

すこしわかりにくいですが、R22の右側面です。右側(前側)のエキゾーストパイプ周囲に金属の覆いが付いており、そこからオレンジ色の吸気パイプがつながっているのがわかると思います。

キャブヒートをOnにすると、吸気温度が上がるためパワーは下がります。明らかに体感できるくらい下がります。
問題になるのが真夏での2人乗りの時であり、アプローチ前にキャブヒートをONにし、そのままアプローチしホバリングに移行するときにMAPがどんどん上がります。下手をするとオーバーマップになります。もちろんホバリング中なので手が離せません。つまりキャブヒートが戻せません。
横に乗っている人に戻してもらうか、コレクティブを一瞬上げ気味にしておき(ホバー中にコレクティブを離すとじわっと下がります)左手を一瞬離してOFFにするかですね。
まあ、一人で乗っているなら重量は軽いのでそんなに神経質になることはないかもしれません。

素人が横に乗っている時、キャブヒートをOffしてもらうのはまだよいかもしれませんが、ONにしてもらうのは絶対に避けたほうが良いです。勘違いしてミクスチャーを引かれたらしゃれになりません。想像しただけでも恐ろしいです。

飛行機でもキャブアイスはもちろん起こります。ただし飛行機に比べてヘリの方がキャブアイスが相対的に危険度が高いと感じます。
ひとつは、ヘリはエンジンのパワーだけに頼って飛んでいる状況がどうしても多くなります。
もう一つはガバナーです。ガバナーのおかげで楽に飛べるわけですが、軽度のアイシングだとガバナーがスロットルを開いて影響を打ち消してしまう可能性があります。つまり気づかないというわけです。
さらにエンストの際のプロシジャーです。飛行機は基本的には(細かいことは省略)そのまま再始動を試みることになります。ヘリはまずオートロです。再始動はそれからです。またヘリは一般的に高度が低いので、それだけ余裕時間が少なくなります。

つらつら書いてきましたが、レシプロのヘリにとってキャブアイスはきわめて危険です。いい加減インジェクションにしてキャブアイスをなくして欲しいですね。安全性ももちろん向上すると思いますし、燃費もパワーも上がるでしょう。(まあそのうちなるでしょうが)

アメリカでR22で訓練を始めるときに、「AwarenessTraining」とかいうビデオを見させられると思います。後半はえんえんマストバンピングの話ですが、前半はキャブアイスの話も出てきます。
イギリスで新婚夫婦がR22マリナーにのり、キャブアイスで墜落して死亡した事故の写真が出てくると思いますが、生々しいです。インストラクターがそれを見て「No Way!」といっていましたが、まさにそんな感じですね。ただ、そのような先人の尊い犠牲を教訓にしないといけないと思います。ひとごとではありません。


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