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ライカミング O-540 考察 [ヘリコプター]

ロビンソンR44やR22でヘリの訓練をしています。メカオタクとしては、エンジンの構造や効率がとても気になりますので、直接操縦に関係ありませんがいろいろ調べてみました。
今回はR44 Raven1のエンジンであるO-540の特に熱効率について考察してみます。

今回参考にしたライカミングのマニュアルはこちら
O-540 & IO-540 Operator's Manual
https://www.lycoming.com/content/operator%27s-manual-O-540-IO-540-60297-10-3

公開されている資料で計算すると、熱効率は25%になりました。かなり低いと思いますが、軽量性と信頼性以外の性能を無視した航空機用エンジンとしてはこの程度でしょうか。

ちなみにO-540はこんな感じの見た目です。(写真はIO-540ですがこのアングルではほとんど同じです。) 
Lycoming社のO-540 & IO-540 Operator's Manualより
WS000000.JPG


まず、今回取り上げるエンジンは R44 Raven1のものです。Raven2のそれのほうが、FIで高性能のようですが、詳細なグラフが見当たらなかったのですし、今乗っているのがRaven1なので、O540にします。まあ本質的な差はないでしょう。

ちなみにライカミングのエンジン形式の命名規則は非常に単純です。
O:水平対向
R:星形
I:燃料噴射 FIということです
T:ターボ
A,AE:エアロバティック

その後の数字は排気量で立法インチで表記されます。1cu inは16.4cc(2.54の3乗)となります。
そのため540は8640ccとなります。ちなみに360は約6Lとなります。



R44 Raven1のエンジンはライカミングのO-540-F1B5 です。

以下はロビンソンのPOHからの抜粋です。

[Power plant]
Model: Lycoming 0-540-F1B5
Type: Six cylinder, horizontally opposed, direct drive, air cooled, carbureted, normally aspirated
Displacement: 541.5 cubic inches

Normal rating: 260 BHP @ 2800 RPM
Maximum continuous rating in R44: 205 BHP at 2718 RPM(102% on tachometer)
5 Minute takeoff rating in R44: 225 BHP at 2718 RPM

空冷の水平対向6気筒、排気量8.9Lで260HPということです。



O*540 F1B5のパーツカタログはこちら
https://www.lycoming.com/sites/default/files/O-540-F1B5%20Parts%20Catalog%20PC-515-2.pdf

これをみるとO-540の構造がよくわかると思います。少し衝撃的なのが、ベアリングが4つで支持されている点です。
4気筒のO-320およびO-360も3ベアリングであり、4気筒を6気筒にしたときに同じ構造を踏襲したのかもしれませんが、4ベアリングでクランクシャフトがきちんと保持できるのでしょうか。
そして、各スローが独立していないための当然の帰結ではありますが、水平対向にも関わらずカミソリクランクになっていません。スバルのCB18が超カミソリクランクになっており、ポルシェのM96もMA123も同じような感じであることと比べるとかなり違います。まあ、回転数が低いから良いのかもしれません。

こんな感じです。
WS000004.JPG

しかし、インマニがオイルパン内を貫通しているのですが、キャブもオイルパン内にいれてしまえばキャブアイスは起こらないのではないかとも思ってしまいますね。FIにすればそもそも問題はないでしょうが。





ライカミングのマニュアルはこちら(再掲)
O-540 & IO-540 Operator's Manual
https://www.lycoming.com/content/operator%27s-manual-O-540-IO-540-60297-10-3

O-540は多数の派生型があり、このマニュアルは延々とページが続きます。なおF1B5のエンジン重量は400lbとのことであり、210kgのようです。結構重いですね。9Lエンジンとしては軽いというべきか?

R44のエンジンはO-540 F1B5であるため、O-540 Fの項を抽出します。

上記のマニュアルのなかに、部分負荷でのMAP&燃料消費量および出力&(B)SFCのグラフがあります。 (BSFC: Brake Specific Fuel Consumption)
WS000001.JPG

R44は102%で2718rpmとのことですので、代表で2700rpmとします。このグラフによると、MAP22インチで出力175HPで、燃料消費は15GPH(Gallons/hour)とのことです。

R44のPOHには書いていないのですが、R44の燃料消費は15GPHとのことなので、こんなところでしょう。ちなみに1ガロンは3.8Lなので、R44は1時間に60Lの燃料をガブ飲みする機体であるということです。言い方を変えれば、1分で1L燃料が減るわけです。1秒で15mlということなので、いかに大量の燃料を消費するかというのがわかると思います。

なお、MAP22インチというのは、燃料Full、日本人二人が乗って100kt(Best Range)で大体この程度(もう少し低く21インチくらい?)になるので、代表的なMAPといってよいでしょう。

燃費が悪すぎです。車と比較するのはフェアではありませんが、高速道路で時速90kmで1時間巡行した場合に、大体燃費が15km/Lととしたら1時間で6Lとなります。エコカーならもっといいと思いますので、いかに航空機の燃費が悪いかがわかります。まあ、航空機は自分自身の重量を支えないといけないので、仕方ないです。
速度を自動車と比較したら飛行機のほうが速いですが、100ktであれば190km/hくらいなのでそこまで劇的に違うわけではありません。いかに車の効率が良いかがわかると思います。空飛ぶ車など非現実的です。


ちなみにグラフのBSFCカーブでは、負荷が低いほどBSFCが低いという不思議な傾きになっています。このような低い負荷(大気圧が30inchということを考えると、22というのはかなり低いパワーセッティングです。)で燃料消費率が最良となるのがよくわかりません。通常ガソリンエンジンではほぼ全負荷に近いところでSFCは下がるはずです。なにか事情があるのだろうとおもいますが、よくわかりません。
それとも、BestRangeのパワーに合わせてなにかチューニングをしたか? そんなコストをかけているとはとても思えませんが。



ということで、いろいろ書いてきましたが175HP、15GPHで熱効率などを計算します。

1ガロン:3.785L
ガソリンの発熱量 33.4MJ/L
1hは3600sec
とすると、15GPHは526.8kWの発熱量ということになります。

そして175HPは130.1kWの出力となります。(1HP=746W)

ということで、単純な割り算で熱効率は24.7%となります。
トヨタの高効率エンジンが41%を達成したということですし、これはかなり低いでしょう。



ただ、ヘリのエンジンは定速運転ですので、そこにチューニングすれば燃費はよくなりそうです。エンジンの使用範囲は101%から102%で、ほぼ完全な定速回転です。そして、巡航ではガバナーが壊れない限りこの範囲から動くことはありません。燃費云々が問題となる巡航ではこの狭い範囲でのみ動作することになります。
また、R44のアイドルは55%程度なので、1400rpmほどでしょうか。(102%で2718rpm)

このあまりにも低い効率を何とかすべきでしょう。固定翼と違って回転数が狭いわけですから、この回転数で効率の高いエンジンさえ積めば、航続距離ももっと伸びるでしょう。
熱効率を5割増しにできれば、航続距離が1.5倍になります。そして、もともと2.5hの航続距離(というか時間)があるため、そうなればR66にも負けないくらいになります。もちろん運航コストも下がります。


まずは圧縮比でしょう。超ビッグボアなのでノッキングに厳しいのだろうとは思いますが、8.5はさすがに現代の常識では低すぎるでしょう。本質的には、オットーサイクル機関の理論熱効率は圧縮比と比熱比だけで決まるわけですから、もう少し上げたいところです。

あとは、ターボチャージャーによる加給でしょう。誰もが考えることですが、ターボさえあれば高高度でもパワーは落ちません。
そもそもR44には与圧および酸素供給システムがないため、高高度ではエンジンではなく人間が耐えられなくなりますので、そこまでの高高度性能はそもそも不要でしょう。さらにターボをつければ排気音も静かになりそうです。




ちなみに、ここまでの記事ではフルスロットルのことは考えていません。
特にレシプロエンジンのヘリにとってはフルスロットルは危険で避けるべき状況です。とくに問題となるホバリングでは余剰トルクがあることが生命線になります。
高地でホバリング中に余剰トルクが無くなり、左ホバーターンでもした際に追加パワーが出せず降下を始めたとします。下手をするとそのままボルテックスリング状態に入り墜落ということがあり得ます。

そのため、特にNAのレシプロエンジンでは大きめのエンジンを選択して、常時部分負荷で使うのが原則です。
ただし、高地で空気密度が下がるとそうはいっておられず、どんどんスロットルが開きとうとうフルスロットルになるわけです。この状態でのホバリングは非常に危険です。


Raven1のO-540のリミットMAPです。
WS000002.JPG

こちらはRaven2のリミットMAPです。
WS000003.JPG

このグラフを見ると、Raven2はフルスロットルになる高度がかなり高いです。またTOPで2.8in追加で使えるということで、パワーには余裕があることがわかります。

しかし、離陸するときにいつも思いますが、TOPおよびMCPが決まっているならそれ以上スロットルが開かないようにしたらよいと思います。
また、このMAP限界は密度高度だけで決まっているわけなので、MAPがそれ以上になったら警告ランプでもつけばよいと思います。
MAPリミットを自分で認識して覚えておくのが重要であることはわかりますが、こんなことまで覚えておかないといけないというのは緊急時には問題と思います。

キャブヒートが必要であることとか、エンジン始動が自動でないこととか、ローエンド機R22とR44には人間のミスを誘発するような仕組みが残っています。(それぞれ3000万と6000万くらいしますが。)
自動車は(半自動?)オートパイロットがついていたり、フル自動のエンジン始動やオートエアコンなど、車こそ最先端です。


しかし、上記のようにはいつも思いますが、「ハイテクエンジンに交換したら、空中でエンジンが停止する可能性が高まる」などと言われたら、やはり少し考えますね。

ヘリのエンジン故障はマジで洒落になりません。固定翼より一段とリカバリーする余裕が少ないです。
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