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「GT-Rのすべて」紹介 モーターファン別冊 [GT-R]

またGT-Rに関するいい本が出ました。

この「・・・のすべて」シリーズは、要するに単なる新型車の解説本なのですが、いつもメカニズムの解説は深く、そしてよい解説がしてあります。今回もすばらしいです。

安いわりに充実した内容です。それでは内容の紹介をしてみます。


いつものことですが、私はメカニズム以外には興味がないので、GT-R開発の推移とか歴代GT-Rとかの記事の紹介はすべて省略します。また、ジャーナリストの試乗記は所詮他人が乗った感想以上のものではないので、これについても触れません。

この本のハイライトは3箇所あり、一つ目は開発責任者の水野和敏氏のインタビューです。
このインタビューはすばらしい。最後に、ほとんどインタビュアーが口を挟む余地がないとありましたが、確かにそんな感じかも。「これからいろんな国がクルマを作り始めるって時に、単にRVブームに押されたようなクルマづくりだけじゃ日本車が行き場を失う」というコメントには感動しました。これはひとえにクルマだけではなく、日本の製造業すべてに共通するコメントだと思いました。
GT-Rは日本の産業構造が変わりつつある、まさにその時期を象徴するクルマかもしれません。

2つ目はテストドライバーの鈴木利男氏のインタビューです。ニュルのノルトシュライフェでギャップでジャンプする話は現実離れして聞こえました。997ターボは200-250km/hrでフロントがリフトする(911のフロントのリフトは有名です)が、その上では安定性が回復するらしい。もうメチャクチャです。その領域での安定性はGT-Rの方が良いらしい。いままでの日本車の領域を完全に飛び越えているのが爽快です。

3つ目が30-39ページまでのメカニズム詳細解説です。これこそ個人的にこの本の白眉だと思います。(あくまで個人的な感想です)

GT-Rの重量配分はフロント53%、リヤ47%らしいですが、かなり理想的でしょう。少なくとも911ターボのムチャな重量配分よりは優れています。(クルマの動きは究極的には重量配分に支配されます)
燃料タンクも、形はともかくよく71Lもの容量を確保したと思います。

Cd値は0.27で相当優れていますが、本当のすごさはClがネガティブ(ダウンフォースがある)であることです。信じられない。しかし、この本はその理由についても記述してあります。その理由とは、トランスアクスルであることらしい。パワーユニットを冷却した空気がトランスミッションに邪魔されずに引き抜けるため、アンダーフロアを通る空気をダウンフォースに使うことができたかららしいです。
ちなみにアンダーパネルも場所により材質が変わり、最前部はPP(ポリプロピレン、対人事故の対策)、途中はGFRP、その後はCFRP、最後部はアルミハニカム付きのCFRPらしい。気合入りすぎですね。

ボディは基本的にはスチール製ですが部分的にアルミのダイキャスト(ダイキャストですよ)で、具体的にはドアとリヤのシートバックサポート、フロントのストラットハウジングがそうです。ドアももちろんですが、シートバックサポートは相当剛性高そうです。
ドアにも剛性を負担させる締結法になっているらしい。また250km/hrでドアガラスを昇降させるための構造でもあるそうです。普通の人はそのスピードでウィンドウなど開けないのでは・・・。
ちなみにアルミと鋼板の接合は接着剤+ボルトらしい。接着剤は電食の予防と遊び止めのためだそうですが、この接着法についてはアウディやジャガーがどうしているのか知りたいです。ボルトは必要なんでしょうか。

GT-Rのボディで一番すごいのはラジエターコアサポートです。なんとカーボンコンポジットです。信じられません。世界初となる構造と書いてありましたが、当たり前でしょう。最前部にCFRPを持ってくる気合がすごい。マトリックスがPP(ポリプロピレン)でファイバーがカーボンらしいですが、材料としての特性の設計自由度が高い構造なのでここには向いていると思います。さらに剛性向上にも効く場所です。



エンジン(VR38DETT)の解説についてはあまり目新しさはありません。しかし、エンジンブロックがクローズドデッキなのは当然として、ブロックの下半分の剛性の高そうなことには驚きました。このブロッックならこのパワーでもビクともしないのかも。
あとライナーレスでボア間温度が40度低下できたらしいですが、こういう細かい数字が普通に出てくるところがこの記事のすごさです。
なお、エンジンの項で一番驚いたのが全域で空燃比のフィードバック制御を行っており、トルク40kg/m時にもストイキオメトリー燃焼をしているらしい。これはすさまじい。ものすごい発熱でしょう。よほど冷却に自信がなければできない制御です。飛ばしているときの燃費もよいでしょうね。



GT-Rがトランスアクスル構造であることは有名ですが、トルクチューブがないのが画期的です。(コルベットにはあります。)これはカーボンプロペラシャフトのおかげらしい。振動特性をチューニングできるため、振動を吸収する構造にできたから位置決めをしなくて済んだとのこと。(CFRPのプロペラシャフトはカーボンのフィラメントワインディング法で作られるため、強度、剛性、重量が調整しやすい製造方法です。つまり振動特性、共振周波数の設定が自由にできる。)

トランスミッションですが、クラッチがDSGのような同軸配置ではなく、湿式他板のものがタンデムに配置されています。この方がFRには素直な配置でしょうね。
ちなみにギアの潤滑は、ギアのかみ合い面にオイルを噴射する方式でいわゆる「ドライサンプ」になっているらしい。こだわりの構造ですね。さらに冷却水によるミッションオイルクーラー(兼ヒーター)もついているらしいです。トランスミッションオイルの温度を速く上昇させてフリクションを減らすためにも役立っているとのこと。



シャシーでのハイライトはやはりサブフレームでしょう。剛性の塊のような構造です。とくにフロントはトランスアクスルでトランスミッションがないことから、サブフレームの後側の左右をがっちり締結できたことにより高剛性が実現できたとのこと。納得の説明です。

ブレーキパッドはシンタードメタルらしい。これはCB1300SFと同じです。(比較してはいけませんか・・。)



この本のメカ解説はすばらしいです。欲しくなって困るかもしれませんが、GT-Rのメカに興味がある人は読んでみることをお勧めします。

これを読んでいて思ったのですが、ポルシェよりもGT-Rの方が作りが面白いです。コストを無視して良いと信じたものを貪欲に採用した印象を受けます。背負うものが少ない感じが切々と伝わります。
開発では997ターボをベンチマークにしたとのことですが、完成車の比較ではぜんぜん相手にしていない印象を受けます。「997ターボより優れている」とかいうコメントはほとんどありません。純粋な性能では明らかに超えたと思っている印象でを受けました。

GT-RはポルシェのケイマンSとほぼ同じ価格帯ですが、ケイマンは超保守的でしかも911の領域を侵さないように意図的に手抜きをして作られたクルマです。(しかし、その手抜きが巧妙)
それに比べるとよっぽどGT-Rの方が潔いです。あと値段安すぎ。これはポルシェに衝撃を与えそうです

・・・ちなみにわたしのケイマンは4日後に納車ですが、メカという点ではGT-Rの方が100倍面白い。


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