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ロビンソンR22解説 7 ローターヘッド、テールなど [ヘリコプター]

ロビンソンR22の解説 7です。
主にヘリの命であるローターヘッドとテールについてです。

【ローターヘッド】
R22_head.jpg
(写真が暗くて申し訳ありません。)

ヘリの命ともいえるローターヘッドです。スワッシュプレート、Teetering Hinge, Corning Hinge、Feathering Hingeなどヘリ特有の部品がいっぱいありますね。
この写真に見えている範囲でR22の特徴というとコーニングヒンジになります。ジェットレンジャー(ベル206)にはありません。シーソーローター(半関節型)では必須ではありませんが、ローターの応力を逃がすという意味ではよいのかもしれません。

ヘリの特徴を一言でいうと、ヘッド関係が「柔らかい」構造をしていることです。飛行機のプロペラは硬いですが、ヘリはローターはペニャペニャ、ヘッドはヒンジがたくさんあり手でも動かすことができるということになっています。このR22でもフェザヒンジを除き、ほかのヒンジは全く拘束されていません。
何もつながっていないので自由に動くことができます。と書くととんでもない作りになっていると思うかもしれませんが、別に問題は起きません。本当にヘリはよく考えられた作りになっていると実感します。飛行機はアイデアはだれでも考え付きそうですが、ヘリは天才の発想という感じがしてなりません。

これはエキュレイユ、BK117、アパッチのなどの「リジッド(無関節)」ローターでも同じです。構造上剛性は高くできないので実際はリジッドといっても、全関節ローターと同じように「やわらかい」構造にせざるを得ないそうです。だってフラッピングできなかったら飛べませんからね・・。

別にここに限った話ではありませんが、ボルトに全てマーキングがしてありますね。特に大事なボルトにはワイヤーロックがかけてあります。

マストバンピングというのは推力がない状態で過大にTeeteringヒンジ(三つある中で真中の上がわにあるやつ)が動いた時にローターの付け根がマストに干渉する現象のことです。ローター平面が傾きすぎたらいかにもそうなりそうな構造だと思いませんか?傾いてマストに当たる部分に白いプラスチックのようなものがついていますが、これはDroopStopという部品です。これが少しは緩衝してくれるのかもしれませんが、いちどマストバンピングに入ってしまったらこんなもの関係ないでしょう。ひどい時にはマストがちぎれるそうですね。
別のところにも書きましたが、R22でマストバンピングに入ると、テールコーンをカットするか、あるいはコックピットをローターが直撃することも多いそうな。その結果左席パイロットの首が飛んでいることもあるとか。

なお、ローターを手で押し下げたらこの部品が壊れるそうです。ローターは決して手で押し下げてはいけません。反対側を押し上げなければなりません。このすぐ下の写真に注意書きが書いてありますね。

R22s_rotor.jpg

あるときアパッチのフライトエンベロープを見ましたが、-0.5G機動が許されていました。リジッドならではですね。それを見ながら思ったのですが、初期型コブラ(スーパーコブラでなくて)はヒューイのコンポーネントを流用したので、ヘッドはシーソーのはずです。あの構造で攻撃ヘリに必ず必要とされる匍匐飛行(Nap of the earth, NOE)ができるのでしょうか?すごく疑問でした。自衛隊マニアの方おしえてください。なおAH-1Z、AH-64、BO105などの攻撃ヘリは全部リジッドヘッドです。当然か・・。

日本で消防ヘリの訓練を見学したことがあります。機種はベル412EPでした。見学者は数十人いましたが、その場でヘッドばっかり見ていたのは私だけでしょうね。ベル社はシーソーヘッドがおおいのですが、412はリジッドです。しかも四枚ローターです。非常に面白かったのを覚えています。本題そっちのけでよそ見ばかりしていました。
もう少しだったのですが、残念ながら乗ることはできませんでした。ま、自分で操縦しない飛行機に乗るくらいなら、ハッチを開けてエンジンやトランスミッションなんかを見たほうがよっぽどおもしろいですけどね。

 私はラジコンヘリでエンジンをカットした時に、回っているローターを速く止めるためにピッチを最大まで上げています。空気抵抗が増えるのですぐ止まって便利でした。それでR22のマニュアルを読んでいると、「エンジン停止後ローターを止めるためにコレクティブを上げるな。」とわざわざ書いてあって笑ってしまいました。誰でも考えることは一緒ですね。
なぜかというと、それをやるとヒンジのフリクションが減るため、ローターがテールコーンに接触することがあるからだそうです。わざわざ書いてあるということは、たぶん誰かやった人がいるんでしょうね。間違いなく。




マニュアル(Pilot Operating Handbook)から抜粋したスペックを書いてみます。

[Main Rotor]
Free to teeter and cone ,rigid inplain
つまり、シーソーとコーニングは自由だが、ドラッグ運動はできないということです。ま、これはローターヘッドの構造を見れば当たり前のことです。見ればわかるでしょう。シーソーローターですしね。

Diameter:25 feet 2 inches
つまり直径が約7.7mということですね。ヘリの中では超小型になります。

Blade Chord : 7.2inches(constant) 18.3cm
コードとは日本語では翼弦?と訳されます。正式な定義では「翼型の前縁と後縁とを結ぶ直線の長さ」だそうですが、要するにブレードの幅です。constantというのはコード長が一定との事で、平たく言うと長方形のブレードということです。アパッチみたいに斜め切りでもなく、リンクスのようにメスみたいな形にもなっていないということのようです。

Blade Twist : -8 degrees
これはブレードのねじり下げが8度あるということです。これは少し説明が必要かもしれません。
理論的には推力を効率よく出すためには、ローターディスクの全面で一定の吹き降ろしを実現することが必要です。ただし、まっすぐな(ねじり下げのない)ブレードですと、外周の方がブレードの相対的スピードが速くなるため、推力が大きくなります。
それをなるべく一定にするためにねじり下げが有効ということです。ラジコンヘリをやっておられる方ならねじり下げありとなしのブレードを使ってみれば意味が分かると思います。
ただしラジコンには背面があります。このときにはねじり下げは逆効果になります・・。

TipSpeed@100%RPM : 672 FPS(Feet Per Second)=205m/s=737km/hr
まあ、こんなものでしょう。100kt(ノット)で飛んでいるときには、前進側のチップスピードは930km/hrになるので結構音速(音速を時速で定義する際は空気密度と温度が厳密には必要です)に近づくことが分かるでしょう。


【ローターブレードの断面】
R22s_bladecut.jpg

カリフォルニアに行ったときに、廃棄するブレードを切っていたので断面を撮ってきました。ステンレスリーディングエッジ+アルミハニカム、対称翼と字で読むよりこの写真を見れば一発で構造が分かるでしょう。切った部分は内側から50cmくらいのところなのでだいぶ内側の方です。前縁の部分は切るのが大変そうでした。まあ、ステンレスですから当然でしょうね。

オレゴンチョッパーにローターの上でピョンピョン跳ねてみたというくだりがありましたが、私もやってみました。ブレードはすごく弾力性があっていくらでも曲がる感じです。
アルミハニカムが曲がるのは何となく分かるのですが、リーディングエッジも曲がるというのがすこし不思議でしたね。みなさんも機会があればやってみることをお奨めします。こんなに柔らかいものに頼って飛んでいるのかというのがすこし新鮮です。そして、このやわらかい、というところがヘリの神髄です。

ちなみに、メインローターの付け根はこのようになっています。
R22s_root.jpg




【Main Rotor stall & Mast Bumping】
R22のマニュアル(POH)にわざわざ1ページをさいて、この2つが載っていました。これはかなり重要な内容であり、わざわざ載っているのもよく分かります。引用してみます。
この点に関しては、パイロットは詳しく知っておく必要があります。そもそも訓練でもさんざん説明は受けるはずです。

R22_procedure.jpg


[Main Rotor Stall]メインローターの失速
中略
Low main rotor RPM, aggressive maneuvering ,high collective angle, and slow response to the low main rotor RPM warning horn and light may result in main rotor stall.

かなり略しましたが、訳してみます。
「メインローターの失速は、ローターの回転数低下、激しい機動、高いコレクティブピッチ、あとは回転数低下警告に対する反応の遅れなどにより起こる」

まあ、この文章を単にメインローターの迎角(Angle of Attack)が高くなる状況を羅列しただけと認識できるなら正しい理解です。
対処法としては、まず速度を60kt(KIAS)でかつVneの0.9倍以下に保つ。しかし57kt以下にはしない。また急激な操作はしない。サイドスリップを無くす。RPMは上限に保つ。
などなどが書いてあります。
これも要するに「必要パワーを減らす」=>「迎角を減らす」ということが書いてあるだけです。(細かいことですが、RPMを保つの項だけは必要パワーは増やす方向になります。迎角は当然減りますが、RPMは低い方が必要パワーは少なくなります。)


[Mast Bumping] マストバンピング
Mast bumping may occur with a teetering rotor system when excessive main rotor flapping results from low "G" or abrupt controls input.
A low "G" flight condition can result from an abrupt cyclic pushover in forward flight. High forward airspeed, turbulence, and excessive sideslip can accentuate the adverse effects of these control movements. The excessive flapping results in the main rotor hub assembly striking the main rotor mast with subsequent main rotor system separation from helicopter.

これも訳してみます。
「マストバンピングはシーソーローターシステムにおいて、低G状態あるいは急激な操作によりメインローターのフラッピングが過大になった場合に起こる。低G状態は前進飛行において急激にサイクリックを前方に押すことによって起こる。高速時、気流の乱れている時、過大な横滑りなどの際に起こりやすい。過大なフラッピングはメインローターハブがマストにぶち当たるため、マストがヘリコプターから分離する。」

マストバンピングは、シーソーローター(正確にはteetering hinge with under-slungの際に)で問題になります。リジッドヘッドでは起こりません。なぜならフラッピングが起こってもどこにも衝突しないからです。
これの本質的な問題は、ローターの傾きを機体(=マスト)の傾きに変換する力を全面的に推力に頼っていることから起こります。Low Gというのは要するにメインローターが推力を出していないという意味ですが、このときにはフラッピングを規制する力はまったくありませんのでフラッピングし放題です。そのためハブがマストに当たることがあるということです。

マストバンピングに関しては、これで墜落することが多かったとのことで訓練でもかなり詳しく教わると思います。
もともとはベトナム戦争でヒューイ(ベルUH-1、あるいはベル204、もちろんシーソーローター)が山の尾根を越えたところに墜落する事故が多発したそうです。事故調査の結果この現象がわかったとのことです。
要するにメインローターから推力がなくなるような低G(当然マイナスGなど論外でしょう)状態になると、テールローターの推力で機体が右に傾きます。そこであわてて左サイクリックを当てるとマストバンピングにはいってしまうとのことです。
オレゴンチョッパーによると、昔は訓練で実際にそのような状況にしていたそうですね。しかし、事故が多発したため最近は無くなったらしいです。

R22もリジッドヘッドにすればマストバンピングは無くなるでしょう。ただし、ただでさえ敏感な操縦性がとんでもないことになるかもしれませんね。

もしアメリカでR22で訓練を始めるとしたら、訓練開始前に「Awareness Trainingなんとか」というビデオを見させられると思います。これは法律で決まっているのでかならずあると思いますが、その内容の半分くらいはマストバンピングについてです。えんえん英語で説明があります。興味深い内容ではあるのですが、訓練前に予備知識がない状態で見ても意味がわからんのではないかという気もします。
 

【マスト周辺】 修理中の写真を撮影してきました。
R22_mast1.jpg

R22のマストです。要するにこの先にローターが付くことになります。
非常にシンプルな構造ですね。まあ、全重量を支える場所ではありますが、リジッドではなく、無拘束のシーソーローターシステムですから応力的には楽な構造でしょ う。
ジェットレンジャーもやはり無拘束のシーソーローターシステムであり、非常にマストが細いです。(なぜなら基本的には曲げ応力がかからないからです。リジッドではそうはいきません。B206に比べたらR22の方が太いかもしれません。)

R22は普通のヘリに比べてマストがかなり長いです。前述のとおりR22は非常に敏感なヘリであり、すこしでも操縦性をマイルドにするために長くなっているのだと思います。
重量は短いほうが軽いに決まっているので短くしたかったのだと思いますが、できなかったのでしょう。今は慣れましたが、はじめてみたときのかっこ悪いという印象はマストの長さのせいだったかもしれません。

ピトー管がパイプに接続されているのが分かると思います。構造は知りませんが、このパイプが対気速度計に接続されているのでしょう。

それよりも、ローターの周りの鉄板のみの外装がすごいです。ただひん曲げて止めているだけのようですね。シンプルの極みです。


【メインローターギアボックス(とマスト)】
R22_maingearbox.jpg

見てのとおりです。単段減速のベベルギアとPOHに書いてありました。

なおR22については詳しくは知りませんが、トランスミッションがパワーの限界を決めているヘリはたくさんあります。つまりトランスミッションの制限のせいでアクセル全開にできないという意味です。車の発想ではトランスミッションの設計がおかしいと思うかもしれませんが、決して間違っていません。
この理由は高高度性能のためです。高度が高くなるとエンジンの出力は下がってきます。その場合でもカタログ出力をキープするためにエンジンをオーバースペックに設計します。だから、ほとんどのヘリは低高度かつ低温度ではアクセル全開にはできないはずです。R22も例外ではありません。

ただ、これは私だけではないとおもいますが、オートロのパワーリカバリーでコレクティブを引き過ぎて、マニフォールドプレッシャー(MAP)が30インチとかになったことがあります。つまり、アクセル全開になりパワーが124馬力をはるかに超えたということです。マニュアルに規定がないので、特に問題はないらしいですけど。
これは言い訳ですが、もしあなたが自分でオートロをやってみたらコレクティブを引きすぎる気持ちはわかってもらえるかもしれません。

なお、R22での出力制限はトランスミッションの許容馬力、オイルクーラーのサイズ、エンジンの寿命などからきていると聞いたことがあります。まあまあ当たり前の理由ですね。ただ真偽はしりません。




「Motor Fan Illustrated vol.9  ITS」



これは自動車用のITシステムの特集ですが、突然ヘリのトランスミッションの記事が出てきます。BK117C2のメインローターギアボックスとMD900を題材に取り上げています。
BK117は重量が大きい上にツインエンジン、しかも回転数の高いタービンエンジンです。エンジンはターボメカ、アリエル1E2です。コンプレッサーが一段軸流(というか斜流)+1段遠心で2段のガスジェネレータータービンです。パワータービンはフリーの1段軸流です。
エンジン内にギアがあり、出力が6000rpmになっていますが、それでもまだ早いのでヒトケタ回転数を落とさないといけません。
しかも、BK117はヘッドがリジッドなので設計は大変でしょうね。セミリジッドはその点ラクだと思います。

なかなか面白い記事です。とてつもなく凝った構造をしているのがよくわかります。
ヘリの安全性はオートロに依存していますが、エンジンが止まってもトランスミッションは壊れてはいけません。そういう意味では大変な場所でしょう。R22はレシプロですので回転数ももともと低く、設計はラクだろうと思います。


【AS350のヘッド】おまけです
R22_starflex.jpg


おまけでAS350(エキュレイユ)のヘッドです。これがユーロコプターが誇る(?)複合材製のリジッドローターヘッド「スターフレックス」です。ローター自体も複合材製だそうです。シーソーでないのでマストバンピングが起こらないですし、リジッドですので機動性も高いそうです。

操縦感覚はリジッド機であるため敏感らしいです。乗ったことがないので感覚は知りませんが。フランスとロシアのヘリはローターが右回転です。これもそうです。だからホバー中は右ペダルを踏みこんでいるらしい。ま、当然ですね。


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