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ロビンソンR22解説 10 エンジン [ヘリコプター]

ロビンソンR22の解説 11です。
エンジンについてです。


【航空機用エンジンの一例】
R22_lycoming1.jpg

ライカミングのO-320かO-360かです。型番は詳しく見ていないので正確には知りませ ん。ただし、これはチューンドエンジンらしくオールブラック塗装です。なかなかシ ブい塗装ですね。

ロビンソンR22もほぼ同じようなものが搭載されているはずです。


この写真ではマグネトの配置が良くわかります。ツインマグネトであり、それが左右 のプラグにそれぞれ接続されているのが良くわかると思います。
片側のマグネ トが、同じ側のプラグ全てを点火しているわけではありません。冗長性を考え、マグネトの故障の際にも各シリンダーに最低1つはまともなプラグがあるようにとの配慮です。

ちなみに、ある時見たディスカバリーの飛行機番組では、マグネトを「マグネット」と略していました。磁石ではありませんので誤訳ですが、気持ちはわかります。今時マグネト点火のエンジンなどまれでしょうから。



【R22のエンジンについて】
R22のエンジンは、ライカミングのO-320またはO-360です。O-320は排気量が320キュービックインチで約5.2リッターです。O-360は約6リッターです。いずれも強制空冷 水平対向 4気筒 OHVエンジンであり、基本的にはセスナ152や172と同じエンジンです。

以下はO-360に限って話を進めます。

6リッターで4気筒ですから、1気筒でトヨタの1.5Lエンジンである、1NZエンジン1基くらいの排気量があります。
だいたいガソリンエンジンで効率を維持できるのは1気筒500mlくらいまでらしいので、効率悪そうです。もちろん1気筒2バルブです。でかいバルブがついてます。
日本車のエンジンを見慣れた目で構造をみると、50年前の構造といっても過言ではない感じです。実際に基本的な設計がされたのは戦後という話です。
指定ガソリンはAV-GASの100LLです。これもセスナなどと同じ標準的航空ガソリンです。


O-360をトヨタ ヴィッツの1NZエンジンと比較してみます。

・1NZ
排気量が1498ccで、ボア・ストロークは 75mm* 85mmとなっています。
これで出力が110psです。ごく一般的なエンジンであり、車用のNAならこんなものでしょう。

・O-360
排気量:6000ccで、ボア・ストロークは 130*111mmとなっています。
これで出力が160hpです。これも航空用としてはごく一般的なエンジンです。


O-360は超ビックボア ショートストロークですね。1NZとまったく違うボアとストロークです。しかし実はスバルのインプレッサ&レガシイのEJ20エンジン(水平対向)は90mm*75mmで同じくらいショートストロークです。
これはなぜかと言うと、水平対向エンジンではストロークを長くするとエンジンの全幅にダイレクトに跳ね返るため、ショートストロークにせざるを得ません。特に車ではエンジンの全幅はサスペンションとモロに干渉するので厳しいところですね。
だからこそインプレッサのフロントはストラット形式であるということもいえます。BE,BH型レガシィも後はマルチリンクですが、フロントはストラットです。

バルブシステムとしては1気筒2バルブのOHVとなっています。とんでもなく単純な仕組みです。言葉を変えれば大昔のエンジンです。ただDOHCはOHVよりも高級などというふうに単純にはいえません。はっきりDOHCの方が優れている部分は、燃焼室の形の自由度が高いことと、高回転化しやすい点です。
燃焼室の設計はエンジン性能の全ての基本ですから、ここが優れているということは優れた方式といえるでしょう。可変バルブタイミングシステムを組み込みやすいと言うのもメリットになるでしょう。
ただし欠点としてヘッドが複雑で重くなり、動弁系の信頼性が落ちます。とくに水平対向のベルト駆動(まさにインプレッサはこれですが)ではえんえんとベルトを這わすことになりスマートではありません。その面ではOHVは非常にいい方式です。単純で信頼性も高いでしょう。

現在のジェネラルアビエーション用のレシプロエンジンはほとんど空冷です。これは自動車用エンジンで空冷が絶滅したのと対照的です。
確かに初期の自動車のエンジンは空冷が多いですが、現在では全て水冷です。これは排ガス規制と燃費による要求からです。
水冷はエンジンの温度管理が厳密にできることから燃費や排ガス規制をクリアしやすいからです。もちろん適切に管理すれば耐久性も優れています。ただし、水冷は冷却水を使用するため水漏れが起こりえます。また重量も重くなる傾向があります。
性能では水冷のほうが良いに決まっていますが、飛行機で空冷エンジンが全盛なのは、飛行機は必ず前に進んでいて十分に冷却用の空気を取り込むことができるからです。また高度が高いと外気温が下がるためその意味でも冷却に有利です。このような条件があるためいまだに空冷なわけです。もちろん軽量に作ることができるという点も有利でしょう。

それではなぜR22のエンジンが空冷かというと、おそらく単にセスナ172と(ほぼ)共通のエンジンを載せたかったからではないでしょうか。ヘリの場合、飛んでいても前に進んでいるとは限りません。また地面近くを這いつくばるようにして使用されることも多いです。はっきりいって空冷が向いているとは思えません。また空冷といっても実際には油冷エンジンであり、オイルクーラーが付いています。

CHT(Cylinder Head Temperature)の制限はマニュアルによると以下のようになっています。
Green:200-500F (摂氏93 - 260度)、Red:500F(摂氏260度)
Greenは通常の使用範囲です。摂氏(日本での「度」です)では93-260度ですが、93度はともかく260度というのは尋常ではありません。自動車の水冷エンジンでは通常水温は80-110度程度です。260度というとアルミニウム合金の使用限界を超えかけている温度です。信じられない温度ですね。またオイル温度の使用範囲は24-118度Cですが、118度でも十分高い気がします。

R22の燃料は、ただ重力で流れてくる仕組みになっており燃料ポンプを持ちません。GravityFlowSystemとか書いてありました。キャブレター(英語ではカーブレイターと言わないと通じません)はエンジンの下側についていますが、きれいに撮れなかったので写真はないです。ええかげんインジェクションにすればいいのにとも思います。なお最近生産を再開したセスナ172の最新型はインジェクションになりました。それから最近でたR44 RavenIIという改良型R44はインジェクションになっていましたね。「キャブヒートが不必要になった」とメーカーのページに書いてありました。そりゃあたりまえだろと突っ込みたくなりますが・・。

スロットルバルブは通常のシステムです。バルブが1個あります。
このページを読まれるとわかると思いますが、ピストンエンジンのヘリでは基本的にフルスロットルは避けて運用します。もちろんフルスロットルになってしまうことはありますが、パーシャルスロットルで使うのが基本です。しかしガソリンエンジンに低負荷時にはポンポングロスが大きくなります。パワーの余裕のためには仕方ないですが、R22の負荷のかけ方だとポンピングロスの塊になってしまいますね。
ターボ化すればポンピングロスを少し回収?できるでしょう。またまず有り得ませんが、BMWのバルブトロニックを採用してスロットルバルブを廃止すれば、ポンピングロスはなくなります。(まあそのようなことにはならないでしょうが。) まあ、根本的にはディーゼルにしてスロットルバルブをなくすという飛び道具はあります。

点火系は航空機エンジンらしく信頼性が高いしくみになっています。マグネト以下の点火系は全て2重です。しかもマグネトですから点火系には電気の供給を必要としません。エンジンが回っている限り問題ない作りになってます。
そういうわけでオルタネーターとバッテリーが同時に故障してもエンジンだけは止まらないつくりです。両方が同時に死ぬのはほとんどあり得ませんが、もしそうなってしまったら回転計が死ぬのがもっとも問題になると聞きました。速度計も高度計も電気を必要としないのでそこは問題ないですが、回転計がないとスロットルの調整ができません。
もちろんツインプラグですが、片方が死ぬとかなりパワーが落ちるとともに明らかに振動が増えます。ただし、プラグが1個おかしくなった程度では、性能は落ちるもののただ飛ぶだけなら問題ありません。




なお車と比較したときに、ヘリのエンジンは次のような特性が要求されます。

1.信頼性
ある意味もっとも要求される特性です。古くて単純な実績のある構造が採用されます。
回転数も低い状態で使われます。また減格(Derated)して使われることが多いです。そのため寿命はますます長くなります。なお、R22は160hpを134hpに減格して使用しています。
しかし、キャブはいい加減やめて欲しいです。キャブレターアイシングなどインジェクションにしさえすれば減るはずです。インジェクターの信頼性に不安があれば二重にすればいいでしょう。(RobinsonR44 RavenIIではインジェクション化されました。そして、R44 Cadetではキャブに戻りました・・。)
ただ、インジェクションにすると今度は電気系統にセンシティブになるかも。現在のシステムだとエンジン自体は外部からの電気の供給がなくても止まらず回り続けます。


2.重量
これは非常に重要視されます。航空機用エンジンは排気量のわりに非常に軽くできています。当たり前ですね。空冷も軽量化に貢献しているでしょう。たとえばR22ベータIIのエンジン ライカミングO-360 J2Aのカタログ上の乾燥重量(ライカミングのWebページによると)258lbとの事です。kgに換算するとたったの117kgです。
参考までにホンダS2000のF20Cエンジンはホンダのページによると約200kgとの事です。エンジンの重量というのは補機類をどこまで含めるかなどにより変化するので一概には比較できませんが、それでも軽量さは分かると思います。


3.パワー
あればあるに越したことはないが、パワーが足りなければ排気量で補う傾向にあります。そのため排気量あたりのパワーは非常に低いです。トルク特性もヘリでは使用回転数が非常に狭いので、ある狭い回転数でのトルク以外は問題になりません。(通常の使用においてはという意味です)
ぱっと見ると排気量が6Lもあるわりにパワーが無いと思われるかもしれません。しかし、車と航空機ではパワーの使われ方が全く異なります。車の場合は最高速アタックでもするなら別ですが、ガソリンがなくなるまで最高出力が続くというのはほとんど有り得ません。
しかし航空機ではそのような状況は十分ありうる状況です。R22でも夏に重い人を乗せてガソリンがなくなるまでホバリング練習をすればそうなります。
車の最高出力はあくまでも使用時間が短い事を前提に設計されています。しかし航空機用エンジンは違います。そのため高出力時の信頼性が重要です。


4.レスポンス
ヘリのエンジンはほとんど定速で運転されます。そのためレスポンスは要求されません。オートロのパワーリカバリーなどでは少しはレスポンスが必要かもしれません。ただどちらにしてもメインローターとテールローターという大慣性の構造物が接続されているので、エンジン単体のレスポンスを云々するのは意味がないでしょう。まあ、どんな作り方をしてもレシプロエンジンがタービンエンジンよりレスポンスが悪くなることはないはずです。


5.燃費性能
車ほど厳しく要求されてはいません。ただし良いに越したことはありませんので、これからのピストンエンジの航空機では重要になりそうです。燃費はダイレクトに航続距離に響くため、重要な性能と思います。
ただし、ピストンエンジンの航空機が業務(フライトトレーニングを除く)に使用されることはあまりないと思うので良いのでしょうか。とりあえず圧縮比が8台というのを何とかするべきです。有鉛のハイオクタンガソリンですので、ヘッド温度の管理が厳密にできればもっと上げられると思います。


6.排出ガス性能(エミッション)、また騒音特性
現在でも無視されているのではないでしょうか。三元触媒もありませんし、マフラーさえ装備されていません。まあ飛んでいさえすれば、距離が遠いので別にそんなにうるさくもないのは確かです。もしターボ付きにすれば、それだけで相当静かになるでしょう。
有鉛ガソリンですので被毒の影響のため触媒を装備することはできません。できれば有鉛ガソリンをやめて通常のハイオクガソリンを使用すれば触媒が使えてよいかもしれません。
ただ、自動車用のガソリンと航空ガソリンは使用条件が違うのでそのまま使えるのでしょうか。厳しくない条件の時は良いでしょうが、超低温とか高空での低圧とかでも大丈夫なのでしょうかね。


ライカミングエンジンの構造を見れば見るほど現代の技術でどこかのメーカーが新しいエンジンを作ってくれないかと思います。ホンダが興味を示しているようですので期待ですが、現在のジェネラルアビエーションの生産数では決して採算は取れないでしょうね。




エンジンについて理解するうえで参考になる本を紹介しておきます。


新航空工学講座 「航空用ピストン・エンジン」



これは航空用ピストンエンジンについて詳しく書いてある本です。日本語で航空用ピストンエンジンについて記述してあるほぼ唯一の本ではないでしょうか(ほかにあれば是非教えてください)
もちろん、記述は空冷水平対向エンジンについてのみです。これもわかりやすいいい本ですが、記述の内容が古いといえば古いです。エンジン自体が古いからその解説が古くなるのは当たり前ではあります。
設計云々については記述はありません。基礎理論と正しい運用などに焦点を当てて書いてあります。

上のR22のエンジンについての説明が興味深いと感じられたなら買って間違いはないでしょう。そういう方には是非お薦めします。





【航空用レシプロエンジンのピストン】
R22のエンジン(Lycoming O-360 J2A)に使われているピストンの写真です。

R22_O360_piston_top.jpg

横にタバコを置いているのでなんとなく分かってもらえると思いますが、とんでもなく大きなピストンです。見て分かるとおり2バルブです。圧縮比が8.5(?たしか)と低いにもかかわらず、結構バルブリセスが深いです。ボア*ストロークがそれぞれ5.125インチ(130mm)、4.375インチ(111mm)です。130mmのボアなど普通の車ではありえないでしょう。燃焼効率から言うと非常に非効率的に見えます。
ちなみにO-320もボアは同じです。またO-540も6気筒であるだけで、ボア・ストロークが共通なので、ライカミングのエンジンはどれも同じような見た目ではないかと思います。(モジュラーエンジンの走り?でしょうか。)

通常のピストンですが、このピストンの形状をみるとまるでディーゼルエンジンのピストンです。現代の設計思想では考えられない形状であり、慣性重量の削減などあまり考えられていません。見るからに低回転型のピストンです。
通常ならピンボス側を削り取るのが普通ですが、それも全くされていません。フリクションが増えそうですが、ピストンの熱を少しでもシリンダー側に逃がすために接触面積を稼いでいるのでしょうか。まあいずれにしても現在の自動車用ピストンとは違いますね。とくにF1やMotoGPのピストンと比べると次元が違います。


こちらは裏面です。
R22_O360_piston_back.jpg


とくに特記すべきことはないのですが、ピストンの厚みは結構あります。低出力のこのエンジンでここまで強度が必要なのかどうかと疑問になるくらい厚く、重いピストンです。信頼性を考えると、軽いことより丈夫なことの方が重要なのかも知れません。ただ、古い設計なだけといわれても信じます。


【R22のエキゾーストマニホールド】
R22_exmanifold.jpg

R22のエキマニです。あとヒートエクスチェンジャー(兼マフラー)です。左の上についている赤いチューブはキャブヒート使用時の吸気管です。なお、これは実際の使用時と上下が逆においてあります。多分スチール製ですが、これこそチタンにすれば数kg軽くできそうですね。
ちなみに、これに消音効果はあるのでしょうか。おそらくほとんどないのではないかと推測されます。R22に静粛性という配慮があるようには思えません。

ちなみに、枯草がボーボーに生えている草地に着陸して、草がもえて火災になったという事故の話を聞いたことがあります。排気管にカバーがあればそのようなことににはならないでしょうが、R22には当然そのような配慮もありません・・・。
(ぜんぜん関係ありませんが、この写真は攻殻機動隊に出てくる思考戦車に見えて仕方がありません。)




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